葛飾区 江戸川区 糖尿病治療 古川内科胃腸科|インスリン作用
インスリン作用

以下少し学問的な説明となります。
糖尿病はインスリン作用の不足によりひきおこされると定義されています。  インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで血糖値を下げる力がとても強いのです。  健康な方ではインスリンは食事の時だけでなく、寝ている間も、食事との間も絶え間なくインスリンが分泌され(これを基礎分泌という)食事をするとインスリンがどっと出てきます(追加分泌)。  インスリン作用の不足とはインスリンの分泌量が少ないかまたは、充分出てきてもその効き方が不充分(インスリン抵抗性といいます)ということです。  抵抗性とはインスリンに対する感受性が鈍っているとか、反応が悪いという意味です。  例えば、健康な方に速効性インスリンを5単位注射すると100だった血糖値が80→70→60→50→40と低血糖を起こしますが糖尿病の方に速効性インスリンを5単位注射しても250の血糖値が200にしか下がらないということです。
2型糖尿病は遺伝因子に環境因子(過食肥満、ストレス、運動不足など)が加わって発病します。  若い方では糖尿病の頻度は少ないのですが60才以上だと3~4人に1人は糖尿病といわれます。  両親が糖尿病だと子供の5~7割は将来糖尿病を発病し、片親が糖尿病だと子供の5人に1人は将来糖尿病を発病するといわれています。

インスリンが健康な人でどのような働きをするのか次に説明してみます。

血液中の栄養分を細胞の中に送り込む。  健康な人が食事をし、血中に栄養分が入るとインスリンがたくさん出てきます(追加分泌)。  インスリンが細胞のドアを開ける「カギ」の働きをし、栄養分が細胞内に取り込まれるのですが、糖尿病ではインスリン作用が充分働かず、ドアを開ける「カギ」の働きがダメになり栄養分が細胞内に入っていけなくなります。  家の「カギ」をなくした人がロックアウトされてしまうのによく似ています。  血糖値が170を超えると尿糖陽性になります。  尿糖陽性とは、新車を買ったところ、欠陥車でガソリンタンクに穴があいていてガソリンが無駄に垂れ流しになっているのと同じことです。
栄養分を肝臓に取り込んで蓄える。  健康な人が食事をするとインスリンがたくさん出てきますが、このインスリンが、肝臓に作用して肝臓が栄養分を貯蔵する倉庫や、冷蔵庫の働きをするようになります。  食事をすると腸から吸収された栄養分は門脈を経由して肝臓に到達しますが、インスリンのおかげで肝臓に貯蔵され末梢中にはあまり出て行かないのです。  そして空腹時や夜間、肝臓に貯められた栄養分が少しずつバランスよく全身に配給されます。  糖尿病ではインスリン作用が弱くて、肝の貯蔵能力が低下するため、食事中に腸から吸収された栄養分が肝臓を素通りして全身に流出するので、血糖値が急激に上昇します。  つまり糖尿病では食後の血糖値がかなり上昇するのは避けられないのです。  この食後の高血糖を是正する最も大切なことが、食事療法(総量規制、特に炭水化物をひかえめに)と、食後の散歩や運動です。  飲み薬やインスリン注射はその後に来るわけです。
インスリンは新陳代謝(最近は代謝ともいわれます)に必要なホルモンです。  代謝は同化作用(自分の体の成分を作ったり、貯蔵する働き)と異化作用(体内の物質を分解すること)からなります。  つまり家の建て替えと同じことをするわけです。  同化作用を円滑に行うには充分量のインスリンがどうしても必要なため、インスリン不足状態の糖尿病では、例えていうと、200年、300年たった木造の家屋が建て替えられないため、あちこちガタがきて、台風、地震が来ると真っ先に倒れてしまう。  つまり病気になったとき抵抗力が弱く重症化しやすいという意味です。  外科の医師はこのことをよく心得ており糖尿病患者の血糖値が高い時にはメスで切らないのです。  切っても傷の治りが遅く、また切り口から細菌感染が起きやすくなるからです。  血糖値が高いということは、砂糖づけのお菓子に甘いシロップをかけたのと同じでいろんな虫(細菌やウィルス)が寄ってきて食い散らかすことになります。  足の小さな傷から感染症が広がり、足があっという間にくさって切断する羽目になるのもわかってもらえるでしょう。  歯周囲炎で歯をなくすのも同じです。
インスリンが不足すると肝臓で余分なブドウ糖がつくられる。  (3)で述べた新陳代謝は家の建て替えと同じと説明しましたが、新陳代謝では他に家の補修と同じこともしています。  家屋の傷んだところを新しくする。  例えば、畳替えや、障子の貼替え、床の貼替えなどと同じで、人間の体もたえず修繕が必要でそのため肝臓が、ブドウ糖、グリコーゲン、蛋白質、コレステロール、中性脂肪などを合成して全身に送り届けるのですが、もともと肝臓はブドウ糖を作る能力が非常に強いのです。  健康な方は夜間も、食事を食べていない時もインスリンが分泌されており(基礎分泌)インスリンが肝臓にブレーキをかけて、ブドウ糖を余分に合成するのを抑え、他のグリコーゲンや蛋白質などをつくっています。  インスリンが不足すると肝臓に対するブレーキが外れて肝臓がブドウ糖を大量に作りすぎて、全身に放出し、血糖値がどんどん上昇するのです。  糖尿病ではインスリンの(1)~(4)までの働きがうまく作動していないことになります。

次に一番大切な食事療法について説明します。  一番理解できないのが食事の総量規制です。  グラフで説明してみます。

インスリン分泌量

健康な方では食事が少なければインスリン量は少なくてすみ(膵臓の負担が軽い)多く食べればインスリンがたくさん必要です  (膵臓の負担が重い)。 糖尿病の方が食事を増やすとインスリンの不足分が多く(グラフの矢印の部分)なり糖尿病が悪化し、逆に食事を減らせばインスリンの不足分が少なくなり糖尿病が改善します。  矢印で示したインスリンの不足ということは、企業での赤字と同じです。  赤字を減らすためには食事を減らすことが一番ということです。  別の説明をしますと、車のエンジンの具合が悪い(膵臓の機能が悪いということ)時、高速で運転すると(食事を多くとりすぎると)エンジンが傷んで壊れてしまう(膵臓がだめになってインスリンが出なくなる)のでスピードをかなり落としてゆっくり運転(食事を少なめにする)すればエンジンは長持ちするわけです。  別の例えをすると、糖尿病では膵臓が暦年齢よりも20~30才早く老化しています。  50才の糖尿病の方の膵臓は70~80才の年齢に高齢化しているのです。  70~80の人(膵臓)に負担をかけない為には、食事を減らすのがベストです。

治療の原則は食事、運動で、飲み薬が次にきます。  最近は新しい作用の飲み薬が次々と開発されています。  腸内での炭水化物の分解を妨げて血糖が急激に上昇するのを抑えるとか、インスリンの感受性を高める、膵臓からインスリン分泌を刺激する、インクレチン作用を強めるなどです。  1つ注意が必要ですが、日本で頻用されているグリベンクラミド(ダオニール、オイグルコンなど)はイギリスではすでに発売中止となり、またアメリカでも使用をひかえるようにという勧告がすでになされています。  (心臓に対するよくない作用機序からです。)  私自身は10年以上前から使用を止めています。  飲み薬の作用は色々あるわけですが、血糖値が高いと最終的にインスリン分泌刺激作用の薬を使いますが、これはねり歯磨きのチューブに例えると、ぎゅっとしぼってねり歯みがき(インスリン)を出すわけで、チューブが空になってくれば、いくらしぼってもだめで、この時にインスリン注射になるわけです。  治療の大原則がわかっていただけたでしょうか。